
東京国際クリニック/医科副院長の宮崎郁子先生が、クリニックスタッフと医療にまつわるさまざまなテーマについて語り合う「郁子先生の部屋」。きょうは、消化器外科の片桐聡先生をお招きしてお話を伺いました。

宮崎:皆様、お変わりありませんか?今回は、私たち消化器の医師の大先輩である、東京女子医大臨床教授の片桐聡先生をお迎えして、最近の消化器がんのトピックスやTICの最新の検査についてお話を伺ってまいります。先生、どうぞよろしくお願いいたします。
片桐:どうぞよろしく。
消化器がんの最近の話題
宮崎:先生は消化器外科がご専門で、毎日のように臨床で患者様を診ておられ、さらに大学で後進の指導も行われていますが、まず最近の消化器のがんにおけるトピックスをお教えいただければと思います。
片桐:そうですね。消化器のがんの手術件数に関して言えば、胃がんはとても減ってきました。ピロリ菌の除去なども奏功していると思いますが、一方で、大腸がんは増加の一途を辿っています。30代の方の手術をすることもありますし、40代の大腸がんはもはや普通、当たり前という感じさえするほどです。
宮崎:そうすると「40歳からの大腸がん検診」という国の指針では、少し遅いかもしれませんね。
片桐:そうですね。それは言えます。明らかに早期に発見できれば大腸がんは治る時代ですから、定期的な検診をお勧めいたします。より早期に発見できれば、治療方法が選択できるということももっと知ってほしいですね。
治療成績が向上した膵臓がん
宮崎:次に膵臓がんについてうかがいます。
片桐:膵臓がんも急激に増えてきていますね。
宮崎:膵臓がんは発見しづらく、見つかっても多臓器に悪さをしやすいと言われますが、どのような印象をお持ちですか?
片桐:膵臓自体が胃の裏側、体の深いところにあって非常に小さく、非常に薄い臓器なので、がんが1cmや2cmの大きさで見つかっても既に周囲の血管やリンパに浸潤・転移をしているケースが多く、進行がんとして見つかることが少なくありません。
宮崎:内科医としては、できるだけ小さく見つけて、外科の先生に手術をしていただきたいと思っています。手術後の状況はいかがですか?
片桐:膵臓がんは手術も非常に難しいがんです。ただ最近はとても有効な抗がん剤も出てきましたので、膵臓がんの治療成績は飛躍的に向上しています。
宮崎:そうですね。昔は手術をしてもしなくても生存期間が2~3か月でしたが、その薬の登場で2~3年延伸する症例が増えましたから、そういう意味では少し明るい話題になりましたね。
片桐:患者様からもよくお話を伺うのですが、インターネット情報で膵臓がんの5年生存率は10~30%と書かれているそうです。しかし、ネットの情報というのは10年くらい前のデータです。ですから我々の間では「歴史書」と呼んでいます。いま治療成績は大きく向上しています。
また、トピックスとしては膵臓がんが発見されたときにはいきなり手術をするのではなく、術前に抗がん剤治療をしばらく施行してから手術をした方が生存率が高くなるという報告が出ています。今後、膵臓がんの治療は、抗がん剤の術前投与を行い、手術をして、また抗がん剤という治療法が主流になってくるだろうと思われます。
膵臓がんに有用な検査とは・・・
宮崎:膵臓がんの検査では当クリニックではMRCP(MR胆管膵管撮影)を行っていますが、これについてご説明いただけますか?
片桐:はい。膵臓がんの検査には、CT、超音波検査、そしてMRCPなどが主体になります。膵臓の真ん中を走る膵管では毎日、600~800ccくらいの膵液が出ています。そこに腫瘍ができれば当然、膵管の形が変わるので、MRCPはMRIを使ってその変化を見ようというものです。

宮崎:膵臓がんに罹りやすいのはどのような方でしょうか?
片桐:糖尿病の方、お酒を飲まれる方、ご家族に膵臓がんの既往歴のある方、あとはIPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)の方もがんの発生母地になることが最近わかってきています。
宮崎:このような方は、検査の頻度を少し短くするなどして経過観察をするということも大事ですね。会員様のプレミアムドックコースでは、人間ドックの中で心臓の検査もしくはMRCPをご選択していただくことになっておりますので、膵臓がんのリスクファクターのある方はMRCPをお選びいただければと思います。
片桐:MRCPは通常のMRI検査と同様ですから、閉所恐怖症の方や体内に金属の入っていない方であれば医療用被曝もなく比較的簡単にお受けいただけます。
大腸がん検査に有用な3D-CT検査
宮崎:さて、大腸がんの検査について当クリニックでは「大腸3D-CT」を導入しています。これについてご説明いただけますか?
片桐:これは非常にすばらしい検査ですね。恐らく5年~10年するとこれが大腸がん検診の主力になるだろうと思います。そういう意味ではTICは時代の先端をいっています。検査時間も20分ほどで済みますし、下剤の服用量も内視鏡と比べると1/10と少量ですみます。肛門からチューブを入れ、炭酸ガスを注入した状態でCT撮影を行います。得られた画像を元に3Dの画像を再構成し大腸内部を観察します。大腸内視鏡よりも受診者様の負担は少ないですし利点が多い検査です。


宮崎:大腸内視鏡は寝ている間に終わるので楽だというご意見もいただくのですが。
片桐:確かに、大腸CTは起きたまま大腸に送気しますので、腹満感はありますね。しかし、内視鏡と3D-CT検査の両方を受けられた方からは「3D-CTは時間が短くていいですね」と言われます。私たち消化器の医師にとっては内視鏡も実際の大腸内が直接見られるという点で貴重な診断の手段ですし、この3D-CTで得られる画像も高精度で侵襲性も低いので診断には有用です。
宮崎:そうですね。ですから定期的に受けられるとすれば、3D-CTを2年続けたら、次の年は内視鏡でというように組み合わせて行えば、診断精度もかなり上がると思いますね。
片桐:僕は普段から患者様に「必ずご自分の便を見てほしい」ということをお伝えしています。最近はシャワー式のトイレが普及して、立ち上がったら自動的に水が流れるというトイレも多いですが、水洗式トイレのいいところは便の形や色、繋がり具合などが実際に見えるという点です。血便ではないか、色が黒くはないかなど、消化器からの情報が便には現れますので、ぜひご自分のお通じを日頃からチェックされることをお勧めします。
片桐先生の日常は・・・
宮崎:先生とTICの関わりについてご紹介ください。
片桐:はい。3年半ほど前からこのクリニックにお世話になっていまして、会員制のクリニックというのは初めてだったものですから、とても貴重な経験をさせていただいています。特に先進の診断機器から得られる画像など、私の勉強にもなっています。他の日は東京女子医大の八千代医療センターと女子医大病院の本院で、消化器外科ということでがんの手術を中心に勤務しています。また、女子医大では学生に超音波の診断などを教えています。
宮崎:では恒例ですが、片桐先生の座右の銘をお教えください。
片桐:座右の銘は毎年変えています(笑)。今年は「我慢」です。今日の診療では、とにかく早く早くということで見切り発車をして治療に移ってしまいがちです。ここは一番、じっくりと我慢をして、きちんとした検査を行い的確な診断をつける、それがひいては安全で正しい治療に結びつくのだと思います。医療行政でも教育でも、拙速は必ず誤った結果をもたらします。「我慢」の二文字が今年の私のテーマです。
宮崎:大変示唆に富んだお話で、とても参考になりました。今日はありがとうございました。



