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SBIメディック特別顧問・特別インタビュー
膵がんは「治らないがん」から「治すがん」へ

宮崎 郁子
宮崎 郁子

東京国際クリニック 副院長
医学博士・消化器内科

当院副院長・宮崎郁子によるスペシャルインタビュー。SBIメディック特別顧問に就任された糸井先生をゲストに迎え、「膵がん」の検査や治療についてお話を伺いました。

SBIメディック特別顧問・特別インタビュー
膵がんは「治らないがん」から「治すがん」へ

膵がんは「治らないがん」から「治すがん」へ

宮崎:皆様こんにちは。今日はいつもの東京国際クリニックを飛び出して、私の母校である東京医科大学病院にやって参りました。そして大先輩でもある東京医科大学病院副院長、消化器内科主任教授の糸井隆夫先生に「膵がん」についてお話を伺いたいと思います。糸井先生、どうぞ宜しくお願いいたします。

糸井:宜しくお願いします。

宮崎:2019年にこちらの病院は新しく建て替えられましたが、とても綺麗で見違えるようになりましたね。

糸井:ありがとうございます。色も白を基調とした清潔感のあるモダンな病院になりました。病床数は、以前の1,015床から少しコンパクトになり904床になりました。その代わり、高難度あるいは急性期など非常に難しい病態の患者さんに対して、大学病院としての高い医療技術を更に提供できるようになり、数多くのミッションを担う責任ある病院になったと実感しています。

宮崎:私が糸井先生のお名前を知ったのは25年くらい前で、当時私はまだこちらの学生でした。本日のテーマの「膵がん」に関して言いますと、当時は、発見されても既に病態が悪化しているというイメージがありましたが、最近の検査や治療技術の進歩で、膵がんの予後は良くなってきたと感じるのですが、先生はどのようにお考えですか。

糸井:当時、膵がんは「絶望的ながん」、「治らないがん」と言われるがんで、治療には薬剤もない厳しい状況でした。しかし、最近では新しい抗がん剤が数多く出てきており、医者が積極的に治療介入し、化学療法も含めて「治すがん」という位置づけになってきたと思います。

膵がんのリスクファクターをまず知ること

宮崎:膵がんも早期発見が大切だと思うのですが、症状が出る前の段階でどのような方が膵がんになりやすいとお考えですか?

糸井:私も「膵がん診療ガイドライン」の作成委員として診断や治療に携わっていましたが、まず一番大切なのはご自身の膵がんのリスクファクターを知ることです。

例えば、家族に膵がんの患者さんがいる場合、膵がんになるリスクは1.5倍あると言われています。特に、親子や兄弟姉妹などの近親者に膵がんにかかった人が2人以上いる家系は「家族性膵がん家系」と言われ、親か兄弟、子供のうちに膵がん患者が1人でもいると4.5倍、2人いると6.4倍、3人以上いると32倍、膵がんになりやすいと言われています。

あとは嗜好物、お酒などにも注意が必要です。糖尿病を含む生活習慣病は、膵がんのリスクファクターになり得ます。さらに慢性膵炎や膵嚢胞などの膵臓疾患は、検診で偶然発見されるという例も多いです。このような病気があるだけでリスクファクターが跳ね上がります。特に慢性膵炎の場合は寿命が10年縮まり、10倍以上膵がんになる可能性が高くなると言われておりますので、それらをまず知っておくことが大切です。

アルコールは、やはり良くない?

宮崎:糸井先生、やはりアルコールは膵臓に良くないですか?

糸井:アルコールは適度な摂取はいいと思いますが、例えば1日20グラム(ワイン3杯くらい)が適量で、それ以上の量を連日飲んでいると多くの人は慢性膵炎になる危険性があります。慢性膵炎になると当然、糖尿病になります。慢性膵炎も糖尿病も膵がんのリスクファクターなので、掛け算になるとかなりの倍率になり、そのような状況はできるだけ避けたいものです。

宮崎:健診などで糖尿病の傾向があると言われた方は、早めに膵臓の検査をした方がいいとお考えですか?

糸井:非常に良い質問ですね。初めて糖尿病になった方は1年以内に膵がんが発生しやすいと言われています。つまり、糖尿病が先か、膵がんが先かということになりますが、膵がんができてから糖尿病になる人の割合も結構多くいらっしゃいます。生活は何も変わらないのに急に血糖値の数値が悪くなって糖尿病になった・・というような状況では、膵がんが隠れているとも言われますので、糖尿病の初期に膵臓をチェックすることは非常に重要です。採血検査は経時的にされた方が安心ですね。

早期発見のために有用な検査とは?

宮崎:膵がんの検査ですが、超音波検査では膵尾部の周辺がどうしても見えにくいという問題があるので、CTやMRIでの検査も大切だと思いますが、いかがでしょうか?

糸井:先述のようにリスクファクターを知った上で早期診断を目指すのですが、現段階では、早期に発見するためのスクリーニング法が膵臓では確立されていません。ですから、通常最初に行うのは血液検査で、腫瘍マーカーも含め膵酵素アミラーゼという膵酵素を測定して診断します。もう一つの検査方法はお腹のエコー「腹部超音波検査」です。この2つの検査をキーにして、異常所見があれば「CT検査」や「MRI検査」に繋げていくことが早期発見のために必要だと思います。

お腹の超音波検査は抜群の簡便さと体に負担がない検査と言えますが、宮崎先生が言われたように膵尾部が見えないので、それに対してはMRIかCTのどちらかの検査を必ず施行することが理想的です。

MRCP(MR胆管膵管撮影)検査の有用性について

宮崎:私たち東京国際クリニックでは「MRCP(MR胆管膵管撮影)検査」を希望される方もここ数年増え続けています。この検査で膵嚢胞が見つかった場合、半年に一度フォローするのですが、膵がんの検査はどの程度のスパンで行うのが宜しいでしょうか?

糸井:膵嚢胞の発見は、MRI検査を行うようになって増加しています。膵嚢胞は腫瘍性と非腫瘍性に分かれますが、小さなものは非腫瘍性が多いです。もちろん、小さな嚢胞も含めてフォローする必要がありますが、また嚢胞の近くに膵がんができやすいと言われているので、突然嚢胞のサイズが大きくなったりするなど悪性化のサインを見逃さないためには、半年おきのMRI検査は非常にいいと思います。MRI検査はエックス線の医療被曝が全くないので、半年おきに受けるのであればCT検査よりもMRI検査の方が体にとっても良いと思います。

宮崎:ありがとうございます。嚢胞のサイズに変化があったときや、3センチを超えるような大きなものが見つかった会員様には、糸井先生をご紹介させていただいてもよろしいでしょうか?

糸井:もちろん紹介していただきたいと思います。膵臓の嚢胞は、サイズの変化だけではなく嚢胞の中にポリープができることも悪性のサインなので、そのような変化があった場合は迷いなく東京医科大学病院にご紹介ください。

宮崎:ありがとうございます。大変心強いです。

膵がんの発見に欠かせない「EUS(超音波内視鏡)検査」とは?

宮崎:膵がん治療はスピード感が大切なので、糸井先生や先生の胆膵チームの皆様をとても頼りにしています。さて、今、東京医科大学病院で受診可能な「EUS検査」について教えていただけますか?

糸井:EUSとは超音波内視鏡の英語(Endoscopic Ultrasonography)の頭文字を取ったものです。超音波内視鏡とは、内視鏡の先に超音波がついており、胃カメラのように口から挿入して診断を行う検査です。膵臓は胃の裏側、あるいは十二指腸の裏側にあるのですが、胃や十二指腸を通して拡大した超音波画像で組織の内部(CTやMRIの画像検査では指摘できない例えば5ミリぐらいの病変でも)を観察することができます。通常検査は、血液検査と、腹部エコー検査を施行した後に異常所見があればMRIもしくはCT検査になりますけれども、EUS検査はその次の位置づけとなります。

画期的な点は、EUS検査で膵臓の細胞や組織を採取できることです。内視鏡の先に太さ1ミリぐらいの針をつけ、胃もしくは十二指腸の外側の膵臓に病変があれば、そこから組織を取って検査することが可能です。画像診断だけではなく、組織診断、病理診断をするためにもEUS検査はもはや欠かせません。

宮崎:もしSBIメディックの会員様の人間ドックで「MRCP検査」をご選択いただき、少し怪しい病変が見つかった場合は、糸井先生をご紹介させていただき「EUS検査」をお願いすることは可能でしょうか?

糸井:はい。「EUS」は大変人気のある検査なので通常すぐには受けることが出来ないのですが、宮崎先生にオーダーいただきましたら最速でご受診いただけるよう最大限の努力をいたしましょう。

宮崎:ありがとうございます。とても頼もしく思います。

新しい診断法「エクソソーム検査」とは?

宮崎:さて、膵がんをもっと早期に発見したいという方には、テオリアサイエンスの「エクソソーム検査」という新しい検査方法があります。この検査について詳しく教えていただけますか?

糸井:「エクソソーム検査」は、当大学の落合孝広教授が開発した検査法です。普通の細胞からもエクソソーム(細胞外小胞)は出ているのですが、膵がん細胞から出てくる特有のエクソソームという分泌物があります。それを拾い上げることを膵がんだけではなく、他のがんでも始めているところです。特に膵がんはスクリーニング方法が全くないので、エクソソームから膵がんを診断するという新しい診断法が注目されています。

これはある程度の症例数を見て評価する必要がありますが、少数の研究段階では有用であるという結果が出ているので、現在普及してきています。ご心配な方は一度受けていただくと良いかと思います。

宮崎:家族歴のある方や糖尿病がある方は、ぜひ受けていただきたい検査ですね。

糸井:お酒を飲んで慢性膵炎の方は、膵がんのリスクの倍率が一番高いですから、そのような方も受けていただくと良いかと思います。この検査は採血だけでお体への負担も少ないですし、普段の採血検査と併せて受けていただくと非常に効率的です。

「膵がん治療」これからの展望

東京医科大学病院で注力している膵がん治療法「HIFU(ハイフ)」

宮崎:それでは、膵がん治療のお話をお伺いしたいと思います。膵がんは患者様によって症状も違うので、個別化の治療法なども開発されていると思います。そこで、最新の治療法でこれは良いというものを教えていただけますか?

糸井:まず、最新の治療はほとんどが保険適応になっていませんので、これを前提としてお話しします。東京医科大学病院で15年ほど前から力を入れているのが、超音波で膵臓を焼灼する「強力集束超音波治療法/HIFU(ハイフ)」という治療です。一般に焼灼するというイメージは、重粒子線や陽子線などの放射線治療を想像されると思いますが、これらの放射線治療には体に耐えうる限界量というものがあります。これらの放射線治療は、ガイドラインに則った方法で治療しますが、その後再発したり、最初の治療が効かなくなってきた場合に、次の手となる治療方法がありません。

現在我々は、その次の手として日本あるいは世界で一番「HIFU」を施行している医療施設の一つになっています。HIFU治療群と非治療群とを比べると、HIFU治療群は予後が明らかに延長しているので、これからもこの治療法を強力に推し進めていきたいと考えています。膵がんの患者さんではこの「HIFU」で我々も既に300例以上治療を行っているので、十分にエビデンスとしてのデータを蓄積しています。大学病院としてこのような実績を持って、現在前向きな治験を行っているところです。近い将来この結果が良ければ、「HIFU」治療は保険収載されるような手技、治療法になると思うので、是非ご期待ください。

宮崎:「HIFU」治療を行って、がん細胞を予め小さくしてから手術するという症例もあるのですか?

糸井:手術をする外科の先生の意見では、放射線を当てた後に手術すると組織が固くなり血管からがんを剥がすのに苦労するそうです。「HIFU」でまず焼いて柔らかくしておいた方が手術しやすいという印象があるそうなので、そのような症例も徐々に増加しています。

「再生医療」についての私の考え

宮崎:これからの膵がん治療には、明るい未来があるといった印象があります。今、自己由来の脂肪細胞を使った幹細胞治療などもあり、私たち東京国際クリニックでもこの再生医療(幹細胞治療)を希望する方が増えています。先生はこのような「再生医療」についてどのようにお考えですか?

糸井:私は、新しいことは何でもやってみたい、何でも知りたいというタイプなので、基本的には新しくて、もし役立つものがあれば、是非取り入れたいと思っています。ただ難しい点は、新しい治療は研究の上でランダム化比較試験ができないのです。つまり、新しい治療だけを選択する群と、標準治療を選択する群との比較がなかなか倫理的にできないという課題もあり、明らかなエビデンスが出づらい領域なのです。ですから、新しい治療を施行している先生は、症例報告でもいいので、劇的に治った例も含めて世の中に症例を発表していくということで、一般的な治療との議論の土台に乗せられると思います。

私は、個人的にはスタンダードな治療が基本であり、それ以外の治療は先述のHIFUも含めて「プラスアルファの治療」だと考えています。それを選ぶのは患者さん本人、あるいは患者さんのご家族です。各種の難しい治療も最新の治療も含めた治療法を提供できるのが大学病院や特定機能病院の役目と考えているので、新しい治療法も非常に興味深く注目しています。

東京医科大学病院の医師としての矜持「内科と外科の強い連携」

宮崎:東京医科大学病院は、内科と外科の先生の仲がいいという印象があったのですが、内科・外科の密な連携はどこから生まれるのでしょうか?

糸井:私の医局である消化器内科に膵がんの症例が来たら、すぐに消化器外科と情報を共有し、手術が適している症例か、手術する前に抗がん剤を施行する方法が適しているか、どちらにするかを内科と外科で協議します。そこに垣根はなく、最大限の情報と最大限の人材で「チームとして一人の患者さんを診ていく」という共通する精神で治療を行っているので、日本では一番チームワークのいい膵がんチームだと思っています。

宮崎:私がまだ東京医科大学病院の医局にいた頃、「胆膵班」の皆様は深夜遅くまで検査をしていた印象がありました。今でも先生のもとに勉強したいという人が世界から集まってきているとお聞きしています。

糸井:確かにあの頃は夜中まで残って仕事をしていましたね。しかしご存知のように、医師の働き方改革が今年4月から始まったので、今、夜中まで検査などしていたら病院や看護部長から怒られますから最近は時間通りに終わるようにしています。多くの患者さんがご来院くださる理由は、我々が新しい治療手技や診断手技を年々進歩させていることを期待してくださるからだと思います。

大学病院としての一つ目の課題は、医療スタッフを多くすることでお互い切磋琢磨して技術を磨くことですが、こちらはすでに実現されていると申し上げたいと思います。二つ目は、海外留学などの経験で病院の外で研鑽を積むことです。私は時期の関係で留学はできませんでしたが、20年ほど前から様々な国の数多くの有名な医療施設を訪問し、その経験の中で様々なノウハウを吸収し、自分のグループを立ち上げました。世界中のいろいろなエッセンスが詰まった医療グループなのではないかと思います。

2023年10月には、世界中に東京医科大学病院のプレゼンスを示すため、すべて英語で対応する「東京メトロポリタン国際内視鏡ライブセミナー」というイベントを開催しました。そこでは、実際の患者さんのライブデモンストレーションを当院の内視鏡室で行い、臨床講堂にその映像を流すことで、世界中の内視鏡医の注目を集めました。この取り組みから東京医科大学病院は、世界でもよく知られた高い内視鏡技術を持つ病院と認識されたと思います。

宮崎:母校の消化器内科が世界に羽ばたくことは、卒業生としても嬉しいので、是非頑張っていただきたいと思います。

医師としての日常~私のライフスタイル~

宮崎:糸井先生の医師としての素晴らしさは、その卓越した技術だけではなく、そのお人柄にあるのだと感じます。先生が医師、特に消化器内科医を志望された理由を教えていただけますでしょうか?

糸井:はい。多くの医者は代々続く医者の家系だと思いますが、私の場合、父は普通の会社員で母は臨床検査技師でした。私は小さい頃から母の勤めていた病院によく遊びに行き周りの先生からも可愛がられていました。小学生の頃の作文で将来の目標を「医者」と書いていたのは、そのような環境が影響したのだと思います。

医学部に合格すると、一番に消化器外科か整形外科のどちらかを、そして三番目に消化器内科で迷いました。しかし私は、1本の内視鏡さえあれば、どこでも消化器内科医の仕事ができると強く思いこの道を選びました。私は内科ですが、外科の学会にもよく行きます。最近は内視鏡の技術と外科の手術の境目がなくなっている時代になったと実感します。そのような意味でも、消化器内科を選択したのは間違いではなかったと感じています。

宮崎:最後に、糸井先生のご趣味や日常について教えていただけますか?

糸井:正直、仕事が忙し過ぎて余暇を楽しむ時間がありません。今一番何をしたいかというと、休日の朝は自分のベッドでゆっくりネットサーフィンをしたいです(笑)。「ところで、本当の趣味は何ですか?」と問われたら「仕事が趣味」とお答えするほかないですね。

日常についてお話ししますと、難しい内視鏡治療を行ったときは、患者さんにご満足いただき、そして私にとっても大きな喜びがあります。私は新しい内視鏡技術を発見したり、新しい内視鏡の道具を作ることが大変好きなので、常に患者さんにのためになる「道具作り(医療機器の開発)」のことばかり考えています。消化器内科医というこの職業は、本当に天職だと私は感じています。

宮崎:糸井先生、本日は貴重なお話をありがとうございました。

糸井:ありがとうございました。

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