
この記事の監修者
志賀 淑之
東京国際クリニック/泌尿器科
1994年筑波大学医学専門学群卒業。虎の門病院、聖路加国際病院に勤務、東京腎泌尿器センター大和病院院長を経て、2015年からNTT東日本関東病院 泌尿器科専門医、ロボット手術センター長。日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医指導医。2024年1月より東京国際クリニック泌尿器科 勤務。
悪性腫瘍(がん)は、早期発見・治療が叫ばれて久しい状態です。中でも「前立腺がん」は、発見が早ければ治療の選択肢も増え完治も十分可能ながんと言われています。今回、今年1月より当院の泌尿器科をご担当いただいている志賀先生に、前立腺がんの診断やロボット手術のメリットなどについてお話を伺いました。
前立腺の位置と働き
前立腺は、男性のみにある臓器で膀胱の下にあり、尿道をとり囲むように位置しています。前立腺は精液の一部である前立腺液を作っており、精子に栄養を与えたり、運動能力を高めたりする働きを持っています。前立腺液は後述するPSA(前立腺特異抗原)というたんぱく質を含んでいます。

増加を続ける前立腺がん
2019年の全国がん罹患データを見ると、男性の部位別がん罹患数は年間94,748件で大腸がん、胃がん、肺がんを抜いて1位でした。好発年齢層では50~54歳で罹患率のカーブが上昇し、75~79歳でピークとなり、その後も大きく下がることなく罹患しています。ただ死亡数は、2020年のデータで年間12,759人と肺がん、胃がん、大腸がんに次いで4位です。

前立腺がんの検査と診断
前立腺がんは、血尿で判明する膀胱がんと異なり、初期段階の自覚症状や痛みはほぼありません。無症状のまま転移することもあり、骨に転移した場合には激しい痛みが現われることがあります。がんができやすいのは前立腺の辺縁域と呼ばれる領域です。
前立腺がんの診断は、血液検査におけるPSA(※)値を根拠として「前立腺がん疑い」となれば、前立腺肥大や炎症などと鑑別するため再度PSAを測り、さらにMRI検査や超音波検査、直腸診などを行い異常所見の有無を確認します。
※PSAとは、前立腺特異抗原(Prostate Specific Antigen)の略語で、前立腺疾患(前立腺がん、前立腺肥大症、前立腺炎のみ)でしか上昇しないマーカーです。
このような検査を経て、がんが疑われれば前立腺の細胞を採取して直接顕微鏡で調べる「前立腺生検」を行います。この生体検査については、NTT東日本関東病院では全身麻酔をかけ18か所の細胞採取を行います。12か所以上採取することが推奨されています。
採取した細胞を顕微鏡で見ると、がんには「顔つき」があるとよく言われます。転移しそうな悪い顔つきのがん細胞もあります。面積ごとに5段階評価をして採点し、合計6点未満であれば、何も治療せず経過観察となります。「今回は治療をしませんが、3か月ごとにPSA検査をしてください」という結果になり、時間経過と共にPSA値が上昇するようであれば再度、生検を行い悪い細胞に変化していないかを確認する必要があります。

前立腺がんの転移と治療
治療は、前立腺だけに留まる「前立腺限局がん」であることをまず確認する必要があります。前立腺がんの転移は相性の良い場所があり、骨盤内のリンパ節、骨、肺の順に転移しやすいと言われています。進行がんになると肝臓や脳への転移も見られます。骨への転移では「骨シンチグラム」という検査を行う必要があります。これはラジオアイソトープを使用しますから総合病院でないとできません。
それらの検査で転移がないと確認されれば「限局性前立腺がん」の診断が確定しますので、前立腺全摘出という手術療法をするか、放射線照射療法をするかの二択になります。また、男性ホルモンをブロックする「ホルモン療法」もあります。この治療では限りなくテストステロンがゼロ近くまで減少するので、男性更年期障害を医原的に起こすため、骨粗鬆症や間質性肺炎、劇症型肝炎、更年期障害の諸症状などの副作用が発現します。「ホルモン療法」は切り札的な治療法なので、転移が始まったときや、他の治療法がなくなってきたときまで選択しません。
NTT東日本関東病院で私が行っているのは前立腺限局がんから、前立腺がんが膀胱に浸潤しているなどの拡大手術が必要な症例まで対応できる、ロボットを使用する手術です。
前立腺がんのロボット手術
前立腺がんの治療として注目されているのがロボット手術です。いま、日本でロボット手術と言えば「ダビンチ」という内視鏡手術支援ロボットが大変ポピュラーで、世界ではすでに100万件の手術症例があります。国内では、最初に慶應義塾大学病院、続いて九州大学病院、東京医科大学病院など次々に導入され、現在約570台が稼働しています。2009年には厚生労働省の承認を受け、2012年、前立腺がんの手術が保険適用されて、その後、順次様々な手術が保険適用されてきています。
私の所属するNTT東日本関東病院では2015年にダビンチを導入し、現在、2台稼働させて「ロボット手術センター」という名称で様々な手術を実施しています。
ロボット手術の特徴
- 切開部位が小さい
切開部位が小さく、患者さんの体への負担が軽い=低侵襲なことが大きな特徴です。 - 3Dモニターを通して操作
患者さんの術野の3Dハイビジョンが表示され、術者はその映像を見ながら手術します。 - 精緻な手術
人間の手より大きな可動域と手ぶれ補正機能を備えているため、精緻な手術が可能です。
ロボット手術のメリットと術者の心構え
ロボット手術は、6か所の小さな傷から行い、無輸血で可能な症例も少なくありません。術後の回復は早く、術後7日で退院される方が多いです(開腹手術ではさらに3日要します)。
手術が成功したかどうかの判断は、前立腺がんに関して言えば、がんをしっかり取り切り、なおかつ術後の尿失禁もできるだけ少なくして、可能であれば性機能も温存できてQOL(生活の質)も担保できたという結果になれば一番いいアウトカムと言えます。
ただ、実際に手術場で起きることは、より傷を小さく、手術時間は短時間で、しかも出血量が少なくするということがゴールとなります。開腹前立腺全摘は、あまり慣れていない術者では本当に難しい術式と言えます。2ℓ、3ℓはあっという間に出血してしまいます。「あの人は達人だね」と言われるマスタークラスの医師のロボット手術は、2時間くらいで終わり、出血量は20㏄未満、しかも開腹手術も同様なレベルでこなします。今、私の技術はそのレベルにあると自負しています。
ロボット手術は、直接患者さんの体に触れている感覚がない治療です。だからこそそれを扱う医師は手当や心のケアができなければなりません。私は高度な治療を施行しつつ、温かみのある医療を心掛けています。
ダビンチとの出会いからこれまでの道のり
私が最初にこのダビンチ手術を見たのは、日本での薬事承認取得(2009年)前の、フランスの医学会でのことでした。当時、すでにヨーロッパではポピュラーになっていましたが、現地の医師が行っているロボット手術を見て「自分の開腹手術の方が技術は上回るな。」といった印象を持ったことを鮮明に覚えています。自分が未だロボット手術を経験していない時だからこそ、そのようなライバル心を燃やしたのだと、今ではそう思います。
ダビンチの導入
その後ダビンチが日本国内に入って来て、私は東京腎泌尿器センター大和病院(現:明理会東京大和病院)の院長職を拝命し、ダビンチ導入のため東奔西走しました。そしてその頃の私は、ロボット手術の技術を習得するため東京医科大学病院の吉岡邦彦教授に師事し、先生の手術に立ち会ったり、私の手術を20例ほど見守っていただきました。当時はダビンチによるロボット支援手術は保険適用前でしたが、吉岡先生と研究会を立ち上げて、一番弟子のように教えていただいたことが私の礎になっています。
再発防止を重視した治療と後進の育成
現在はロボット手術全盛ですが、患者様にとって大事なことは「がんの再発をしないこと」ですから、そのための治療を追求し続けたいと考えています。もう一つの私の使命は「ロボット手術の現場を通した後進の指導」です。ロボットには触覚がありません。ですから、高度な技術を持ちながらもきちんと患者様に寄り添って手当てができる「触覚を持った感じることができる外科医」を育てていきたいと思っています。
前立腺がんにならないための生活のヒント
さて、前立腺がんの原因を考えると、遺伝と食生活、性生活の影響など様々な学説があります。東洋人は、従来は前立腺がんがそれほど多くはありませんでした。昔の生活では大豆たんぱくを多く摂っており、大豆たんぱくは前立腺がんができにくいという効果があったり、あるいは緑茶のカテキンも前立腺がんを予防する方向に働くことが知られていました。いわゆる精進料理は前立腺がんになりにくいと言われます。
また、欧米の食生活のように肉が多く、フライドポテトのような良質でない油を摂取することや、不特定多数の女性とのセックスが原因とする論文や、ウイルス説もあります。遺伝は一つの要因になります。喫煙も膀胱がんほど直結しませんが要因にはなります。
要するに、いろいろながんを未病のうちに抑える秘訣は、生活習慣病にならない生活、食習慣を身につけることで、それは前立腺がんにもなりにくいと言えると思います。

定期的な人間ドック受診の重要性
前立腺がんの摘出手術は必ずがんを含む全摘で、一般的には前立腺の後ろにある精嚢も一緒に摘出するので術後は射精ができにくくなります。また、術後は尿失禁(尿もれ)などもありQOL(生活の質)は決して良いものではありません。しかし極力早期に発見すれば、先述のように無治療での経過観察も選択肢に入ってきます。
そのような意味からも人間ドックを定期的に受けることは大変重要です。血液検査でがんがわかるのは「白血病」と「前立腺がん」だけです。PSAは前立腺がんのマーカーとしては非常に鋭敏で、治療効果の判定や再発の有無の判定などにも使用できるほど優秀です。
前立腺がんの治療は双方向の病診連携で
SBIメディックは、社会的にも信用がありステータスを持たれた方々の会員制医療機関ですから、会員様も健康意識が大変高く、前立腺がんで言えばPSA検査はもちろんMRIやCTスキャンなどもすぐに撮れるという状況にあるので、泌尿器系の疾患を早期に発見するのには最適な施設だと言えます。
前立腺がんについては、血液でPSA値を調べ、MRIを撮影して異常所見があれば私の所属するNTT東日本関東病院などをご紹介できます。治療後のアフターフォローはまた当院で私が行うという流れになります。そのような意味で、TIC→紹介医療機関という一方向の連携ではなく、双方向の治療が可能な病診連携が可能です。
泌尿器科医を志した理由
実は、私は子供が大好きで小児科医を目指していました。そこで小児外科に進んだところ、そこで診る疾患は泌尿器科系の奇形ばかりでした。そこで泌尿器科を勉強しないとだめだということがわかり泌尿器科に回ったところ、老若男女問わず、医師が自分で問診、検査、診断をつけ、手術をして、抗がん剤をやって、緩和ケアもして、看取りまで一貫してできるのは泌尿器科だけだということに気づきました。
実際、臨床に出てみると、コミュニケーション能力の高い人が泌尿器科医に進むことが多いと感じています。それは大病院の病院長ほど、外科と内科の間をコントロールできる「泌尿器科医」であることが少なくないことからもうなずけます。
【会員様へのメッセージ】
「尿と便は毎日の健康診断」です。ご自身でチェックできる体からの信号ですから、よく観察していただきたいと思います。また受診に関しては、押しなべて男性の方が、怖がりで「病気が見つかったら嫌だ」という気持ちはよく理解できます。そして、「泌尿器科は受診しにくい診療科」とよく言われますが、尿は毎日出ていますので、そのような意味では非常に身近な科であると言えます。
NTT東日本関東病院の泌尿器科でも一番多い患者さんは、尿潜血陽性、次が夜間頻尿、尿が出にくくなったと訴える方です。ご自分で排尿の障害などに気づかれたら、早めに、気軽に泌尿器科を受診して、より専門的な問診とそこから引き出される他の疾患の可能性を探ってほしいと思います。皆様は様々な検査機器が完備している東京国際クリニックで受診できますから、ぜひ活用して安心してより良い人生を送っていただきたいと願っています。
【女性の皆様へ】
「しょっちゅうトイレに行きたくなる。」「突然の強い尿意でトイレまで間に合わない。」といったお悩みで泌尿器科を受診される女性の患者様が増えており、外出や旅行などにも行けないと訴えられます。こういった症状には、尿がたまる前に膀胱が収縮してしまう「過活動膀胱」が原因となっていることが多くあります。「過活動膀胱」は問診で診断がつき、現在では良い治療薬もあります。一人でお悩みにならず、どうぞお気軽にご相談ください。



